勤怠管理システムで「労働時間の可視化」を実現するために知っておくべき基本と実践
「残業が多いのはわかっているが、誰がどれくらい働いているか正確に把握できていない」「36協定の上限に近づいていても、気づくのがいつも月末になってしまう」「時間外労働を減らしたいが、何から手をつければいいかわからない」――労働時間の管理に関するこうした悩みは、勤怠管理担当者が避けて通れない課題です。
勤怠管理システムの重要な役割のひとつは、労働時間を「見える化」し、問題が深刻になる前に対処できる環境をつくることです。
この記事では、労働時間の可視化に必要な5つの概念を3つのテーマで解説します。
正確な「残業管理」と「月次集計」で労働実態を把握する
労働時間の可視化において、最も基本となるのが残業管理と月次集計です。
残業管理とは、従業員ごとの時間外労働・深夜労働・休日労働の時間数を正確に記録・集計・管理することです。残業時間は賃金計算に直結するだけでなく、従業員の健康管理や法令順守の観点からも重要な指標です。
月次集計とは、1ヶ月単位で従業員の労働時間・残業時間・休日出勤日数などを集計し、一覧として把握できる状態にすることです。勤怠管理システムでは、この集計を自動で行い、部署別・個人別にレポートとして出力する機能が備わっているものが多くあります。
残業管理と月次集計が正しく機能するためには、打刻データが正確であること、勤務区分や労働時間のルールがシステムに正しく設定されていることが前提です。集計結果が実態と合っていない場合、設定のどこかに誤りがある可能性があります。
「集計してみたら実態がわからない数値が出てきた」という場合は、システム設定の見直しが必要です。専門家に設定内容を確認してもらうことで、正確な労働時間の把握への近道になります。
知らないでは済まされない「36協定」と法令上の上限

残業管理を行ううえで、必ず理解しておかなければならないのが36協定です。
36協定とは、労働基準法第36条に基づき、時間外労働・休日労働をさせる場合に、会社と労働者の代表が締結し、労働基準監督署に届け出なければならない協定のことです。36協定を締結せずに時間外労働をさせることは、労働基準法違反になります。
36協定には上限時間が定められており、原則として時間外労働は月45時間・年360時間以内でなければなりません。繁忙期などに特別条項を設ける場合でも、年720時間・月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間以内という上限は絶対に超えてはならない規制です。
勤怠管理システムでは、36協定で定めた上限時間をシステムに設定し、各従業員の残業時間がその上限にどれだけ近づいているかをリアルタイムで確認できる機能が活用できます。
36協定の内容は会社によって異なり、締結内容によって管理すべき上限値も変わります。「自社の36協定の内容をシステムに正しく反映できているか」は、担当者として必ず確認すべきポイントです。
締結内容の確認や設定への反映に不安がある場合は、社会保険労務士や勤怠管理の専門家に相談することをおすすめします。
問題を未然に防ぐ「アラート」機能と「時間外抑制」の仕組み
労働時間の可視化の真価は、問題が起きてから気づくのではなく、問題になる前に対処できることにあります。そのための仕組みが「アラート」と「時間外抑制」です。
アラートとは、特定の条件(残業時間が月40時間を超えた、36協定の上限まで残り10時間を切ったなど)を満たした際に、システムが管理者や本人に自動で通知を送る機能のことです。メール・システム内通知などの方法で知らせることができ、早期対応を促します。
時間外抑制とは、時間外労働が増加しないよう、シフト調整・業務量の見直し・管理者による声かけなど、組織的な取り組みによって残業を減らすことです。アラートはあくまで「気づきを与えるツール」であり、実際に残業を減らすためには管理者の行動と職場の仕組みが不可欠です。
アラートを設定していても、通知を受け取った管理者が何も対処しなければ意味がありません。「アラートが鳴ったら誰が・何を・いつまでに対応するか」というルールをあらかじめ決めておくことが、仕組みを機能させるカギです。
時間外抑制は、業務プロセスの改善・適切な人員配置・管理職のマネジメントなど、勤怠管理の枠を超えた取り組みが必要になるケースもあります。自社だけで対処が難しいと感じたときは、専門家の視点からアドバイスをもらうことで、効果的な改善策を見つけることができます。
この記事のまとめ
労働時間の可視化を実現するには、以下の5つの概念を正しく理解して運用に活かすことが重要です。
・残業管理:時間外・深夜・休日労働の時間数を正確に記録・管理すること
・36協定:時間外・休日労働を合法的に行うために締結・届出が必要な労使協定
・アラート:残業時間が基準を超えた際にシステムが自動で通知する機能
・月次集計:1ヶ月単位で労働時間を集計し、実態を一覧で把握すること
・時間外抑制:組織的な取り組みによって時間外労働を減らすこと
労働時間の可視化は、法令順守・残業代の適正支払い・従業員の健康管理すべてに関わる、勤怠管理の中でも特に重要なテーマです。システムの機能を正しく使いこなすためには、36協定の内容の正確な把握、アラート設定の適切な運用、そして管理者が動ける仕組みづくりが欠かせません。
「自社の設定が本当に正しいか不安」「残業が減らない根本原因がわからない」と感じている方は、ぜひ勤怠管理の専門家に現状を相談してみてください。見える化された労働時間データを武器に、健全な職場環境を築いていきましょう。
勤怠管理用語辞典

長時間労働の抑制や36協定違反の防止には、日々の労働時間をリアルタイムで「見える化(可視化)」することが不可欠です。ここでは、状況の把握から対策の自動化までに役立つ必須キーワードを解説します。
■ 1. 労働時間の構造・内訳に関するキーワード
・総労働時間
出勤から退勤までの時間(拘束時間)から、休憩時間を差し引いた、実際に労働したすべての時間の合計。
・実労働時間
遅刻・早退・中抜けなどの不就労時間を除き、従業員がその日に実際に業務に従事した正味の時間。
・時間外労働の通算
複数の勤務形態や休日出勤が発生した場合に、月間や年間で発生したすべての残業時間を合算して集計すること。
■ 2. 36協定・法的な上限管理に関するキーワード
・限度時間(原則の上限)
36協定において、延長できる残業時間の原則的な上限。「月45時間・年360時間」。
・特別条項
臨時的な特別の事情がある場合に限り、限度時間(月45時間)を超えて残業を可能とするための労使協定の特例。
・上限規制(絶対上限)
特別条項を適用する場合でも絶対に超えてはならない、罰則付きの時間外労働の上限(例:年720時間以内、複数月平均80時間以内、単月100時間未満など)。
・月60時間超の割増賃金率
月間の法定外残業が60時間を超えた場合、すべての企業において割増賃金率を「50%以上」に引き上げて計算・支給する法的義務。
■ 3. 可視化とアラート機能に関するキーワード
・ダッシュボード
全社、部署ごと、あるいは個人ごとの当月の残業時間や有休取得率を、システム上の1画面でグラフや数値として一目で確認できる画面。
・多段階アラート(しきい値設定)
残業時間が「30時間(注意:黄色)」「40時間(警告:赤)」のように、設定した基準値(しきい値)に達した段階で段階的にシステムが通知を出す機能。
・予測アラート(着地予測)
月の途中までの勤務実績から、月末時点での最終的な残業時間をシステムが自動計算・予測し、上限を超えそうな従業員を事前に警告する機能。
・インターバル未達チェック
勤務終了から次の始業までの休息時間が、あらかじめ設定した「勤務間インターバル時間」に満たない日をシステムが自動抽出・可視化する機能。
■ 4. マネジメント・対策に関するキーワード
・残業申請連動
システム上で事前に残業申請・承認を行わなければ、深夜や定時以降の打刻をエラーとしたり、管理者に乖離を通知したりして、不要な残業を抑制する運用。
・勤怠レポート(CSV出力)
監査や組織改善のために、全従業員の労働時間の推移やアラートの発生履歴をデータとして抽出・分析する機能。
・セルフマネジメント
従業員自身がシステムのマイページから「今月の自分の残業時間」をいつでも確認し、自主的に業務量をコントロールできるよう促す運用のあり方。