勤怠管理システムで「コンプライアンス」を強化するために知っておくべき基本と対策
「勤怠データが法的に正しく管理できているか自信が持てない」「従業員の個人情報をシステムで扱うにあたって、何に気をつければいいかわからない」「労働基準監督署の調査が入った場合に、適切に対応できるか不安がある」――コンプライアンスに関するこうした悩みは、勤怠管理システムを使い始めた担当者が遅かれ早かれ直面する課題です。
勤怠管理は、労働時間という従業員の権利に直結するデータを扱うため、法令への対応と情報管理の両面で高い水準が求められます。
この記事では、勤怠管理におけるコンプライアンス強化に必要な5つの概念を3つのテーマで解説します。
勤怠管理の土台となる「労基法」への正しい対応
コンプライアンス強化の出発点は、勤怠管理に直接関わる法令の理解です。
労基法(労働基準法)とは、労働時間・賃金・休日・休憩・解雇など、労働条件の最低基準を定めた法律のことです。勤怠管理においては、「1日8時間・週40時間の法定労働時間」「時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払い」「年次有給休暇の付与・取得義務」「労働時間の客観的な記録・保存義務(3年間)」などが特に重要なルールです。
2019年の働き方改革関連法の施行以降、労働時間の客観的な把握が義務化されており、タイムカードや勤怠システムの打刻データを適切に保存・管理することが会社に求められています。
勤怠管理システムを導入していても、設定が労基法の要件を満たしていなければ、法令違反のリスクはなくなりません。「残業時間の計算方法が正しいか」「深夜労働の時間帯設定が適切か」「休憩時間が正しく除外されているか」といった点を定期的に確認することが重要です。
労基法への対応状況に不安がある場合は、社会保険労務士や勤怠管理の専門家に設定内容を確認してもらうことで、法令違反のリスクを低減することができます。
勤怠データを守る「個人情報保護」と「セキュリティ」の考え方

勤怠管理システムには、従業員の氏名・出退勤時刻・労働時間・休暇取得状況・GPS情報など、多くの個人情報が集積されます。これらを適切に保護することは、法的義務であると同時に、従業員との信頼関係を守るうえでも欠かせません。
個人情報保護とは、個人情報保護法に基づき、従業員の個人情報を適切に取得・管理・利用・廃棄することです。勤怠データは「特定の個人を識別できる情報」に該当するため、目的外利用の禁止・安全管理措置の実施・従業員への利用目的の通知などが求められます。
セキュリティとは、勤怠システムに蓄積されたデータへの不正アクセス・情報漏洩・改ざんを防ぐための技術的・組織的な対策のことです。具体的には、アクセス権限の適切な設定・パスワード管理の徹底・通信の暗号化・不審なアクセスの検知などが含まれます。
クラウド型の勤怠管理システムを利用している場合でも、システム提供側のセキュリティ対策に完全に依存するのは危険です。自社側でのアクセス権限の管理・退職者アカウントの速やかな無効化・定期的なパスワード変更といった運用面での対策も、同様に重要です。
個人情報保護とセキュリティの対策は、一度整備して終わりではなく、システムの変更・組織の変化・法改正に合わせて継続的に見直す必要があります。対策の現状評価や改善策の策定については、専門家のサポートを受けることで、より確実な体制を構築できます。
有事に備える「ログ管理」と「監査対応」の準備
コンプライアンス強化において、日常的な運用と並んで重要なのが「有事への備え」です。
ログ管理とは、勤怠管理システム上で行われた操作・変更・アクセスの履歴を記録・保存・管理することです。「誰が・いつ・どのデータを・どう変更したか」を追跡できる状態にしておくことで、不正操作の抑止・問題発生時の原因究明・証拠の保全が可能になります。
監査対応とは、労働基準監督署の調査・社内監査・外部監査などに際して、勤怠データや関連書類を適切に提出・説明できる状態を整えておくことです。労働時間の記録は労基法上3年間の保存が義務付けられており、調査時に提出を求められた際に即座に対応できる体制が必要です。
ログが適切に記録・保存されていない場合、不正が行われても事後に追跡できず、調査に対して証拠を示せない状況に陥ります。また、監査対応の準備が整っていないと、実際には適法な運用をしていても、書類の不備や説明の不足によって不利な状況になることがあります。
「調査が入ってから慌てて対応する」のではなく、日常の運用の中でログを正しく蓄積し、データを整理された状態に保つことが重要です。
監査対応の準備や、ログ管理の設定・運用方法については、勤怠管理の専門家に相談することで、いざというときに慌てない体制をあらかじめ整えることができます。
この記事のまとめ
勤怠管理におけるコンプライアンスを強化するには、以下の5つの概念を正しく理解して運用に組み込むことが重要です。
・労基法(労働基準法):労働時間・賃金・休日などの最低基準を定めた法律
・個人情報保護:従業員の個人情報を適切に取得・管理・利用・廃棄すること
・ログ管理:システム上の操作・変更・アクセスの履歴を記録・保存・管理すること
・セキュリティ:不正アクセス・情報漏洩・改ざんを防ぐための技術的・組織的対策
・監査対応:調査や監査に際してデータや書類を適切に提出・説明できる体制の整備
勤怠管理のコンプライアンスは、「違反しなければいい」という消極的な対応では不十分です。労基法への正確な対応・個人情報の適切な保護・ログの確実な管理・監査への万全な備えを、日常の運用の中に組み込んでいくことが求められます。
「現状の運用が法的に問題ないか確認したい」「監査対応の準備を整えたい」と感じている方は、ぜひ勤怠管理の専門家や社会保険労務士に相談してみてください。
コンプライアンスの強化は、会社と従業員の双方を守るための、最も重要な投資のひとつです。
勤怠管理用語辞典

勤怠管理において最も重大なリスクは、労働基準法などの法令違反による企業経営へのダメージです。本単元では、労務コンプライアンス(法令順守)を徹底し、健全な職場環境を守るための必須キーワードを解説します。
■ 1. 労働時間の適正把握に関するキーワード
・労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
厚生労働省が定めた、企業が従業員の労働時間を正しく把握・管理するための具体的なルールや実務指針。
・客観的な記録による確認
タイムカード、ICカードのログ、PCの入出力履歴など、労働者の主観に頼らない確実な方法で労働時間を記録・確認すること。
・自己申告制の適正運用
やむを得ず自己申告で労働時間を管理する場合に、実態調査やガイドラインに基づいた厳格なチェックを行い、過少申告などを防ぐ運用。
■ 2. 労働基準法・罰則リスクに関するキーワード
・36協定違反(さぶろくきょうてい違反)
労使協定で定めた延長時間を超えて残業をさせた場合、または協定を締結・届出せずに対象時間外労働をさせた場合に科される法律違反。
・罰則付き上限規制
働き方改革関連法により導入された、36協定の特別条項を用いる場合でも「年720時間以内」「複数月平均80時間以内」などの絶対上限を超えた場合に科される罰則。
・賃金不払残業(サービス残業)
実際の労働時間に対して正当な割増賃金を支払わない行為。労働基準法違反(割増賃金不払)となり、遡及支払いや是正勧告の対象となる。
・労働基準監督署(労基署)の調査
法令順守の状況を確認するため、労基署の労働基準監督官が企業に対して行う立ち入り調査や書類の提出要求(定期監督、申告監督など)。
■ 3. 勤務環境・健康確保に関するキーワード
・安全配慮義務
企業が従業員の生命や心身の安全・健康を確保しながら働けるよう、必要な配慮を行うべき法律上の義務(長時間労働による健康障害防止など)。
・医師による面接指導(産業医面談)
月間の時間外・休日労働が一定時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる従業員に対して、医師(産業医)による面接・指導を受けさせる義務。
・勤務間インターバル制度
終業時刻から翌日の始業時刻までに、従業員の睡眠や休息のために一定時間以上のインターバル(休息時間)を設ける制度(努力義務)。
■ 4. 記録の保存と適正運用のキーワード
・勤怠データの保存義務
労働基準法により、タイムカード、出勤簿、有休管理簿などの勤怠・労務に関する重要書類を「5年間(当面の間は3年間)」保存しなければならない義務。
・監査ログ(変更履歴)
システム上で勤怠データが修正された際、変更前後の内容、修正日時、修正者を自動で記録し、不正なデータ改ざんがないことを証明する仕組み。
コンプライアンス強化において、システムは「違反の抑止力」として働きます。法律違反が起きてから対処するのではなく、上限に近づいた段階で自動アラートを飛ばすなど、システムによる「仕組み化」を進めることが、企業と従業員をリスクから守る確実な方法です。